mogu mogu MOGGY

mogu mogu MOGGY

時速1kmの思考

2.22. 猫の日記〜浪江町から東京を巡る旅

https://68.media.tumblr.com/4e6419643dea9d049b11b78734a916e7/tumblr_n3g0ppy3k11qbz7lgo1_1280.jpg

ボクはφ。「ふぁい」と読みます。
ボクは福島の浪江町というところで生まれました。
とても静かで車もめったに通りません。
ある日ボクは、鉄のかごを見つけました。
中からおいしそうな匂いがします。
ボクは思わず飛び込みました。お腹がぺこぺこだったのです。
扉がしまり、ボクはパニックになりました。
ボクは初めて人間という生き物に遭いました。
大きくて、びっくりしました。

連れて行かれたお家には動物がたくさんいました。
みんなここで仲良く暮らしているみたいです。
チャト兄さんはボクの面倒をよくみてくれました。
チャト兄さんは薄茶の縞々の格好でした。
ボクは安心しました。一緒にいればきっと大丈夫。
お腹の中にいた虫も、お薬っていうカリカリで治りました。
ボクはだいたい1歳くらいだということもわかりました。

チャト兄さんとの別れは突然でした。
ボクはまたかごに入れられました。
寂しくて、心細くて、鳴きつづけました。
揺られて揺られて、ようやく落ち着いたのは、
とっても広い白いお家。
新しいお友達が待っていました。
ボクはトイレというものを覚えました。
毎日体を梳かされて、いい気分になりました。
おいしいご飯に感激しました。
しばらくすると、色んな人間がボクに会いに来ました。
ボクはかごの奥に引っ込みました。
シャーって怒ってみました。
なんだかまた怖くなってきたのです。
そして、嫌な予感は的中しました。

ある日、またボクはかごに入れられました。
また揺られて揺られて、ようやく揺れが止まると、
ボクの息はとても荒くなってしました。
ボクがおろされたのは、小さな部屋でした。
そこには、この間ボクに会いに来た人間もいました。
その人間がお水をくれました。
それどころではないボクは、
なんとか息を整えようとしました。
ボクはひとりぼっちになりました。
隣の部屋には人間の気配がします。
怖いけど、気になる。
思いきって、この部屋を出てみることにしました。
人間があちこち案内してくれたので
ボクは全部の部屋の匂いをかぎました。
前のお家よりは小さいけれど、危険はなさそうです。
安心したら急にお腹が減ったので、ご飯を食べました。
ふかふかの布団に腰を下ろしたら、うとうとしてきました。
その夜、ボクは初めて人間と一緒に寝ました。
人間はボクにφ(ふぁい)という名前をくれました。
ボクの首には紐が巻かれて、歩くと音が追いかけてきます。

ボクは今もここで元気に暮らしています。
朝ご飯はパパが用意してくれます。
パパは時々寝坊するので、
ボクが起こしてあげます。
ボクはササミが好きになりました。
本当は鰹節がいちばんだけど、
痛風になるからとめったにもらえません。
でもたぶん、それは噓です。
パパとママが隠れて食べているのを、
ボクは知っています。

毎日うんことおしっこをすると褒められます。
クーラーって奴が「ゴゴォ」って呻くから
びっくりして一度だけ粗相しちゃったけど、
なかったことにしています。

夜はパパとママの間で寝ます。
夏はママの上、
冬は布団と布団の間で寝るのがオススメです。

人間の言葉も勉強しています。
「おはよう」「おかえり」「好き」「寂しい」「遊ぶ」「寝よう」。
いちばん嫌いな言葉は「旅行」です。
「お前はよく喋るな〜」ってパパは言います。
たぶん、パパ似だと思います。

そしてママが教えてくれました。
ボクが生まれた浪江町は、
2011年の震災で人間住めなくなってしまったこと。
たくさんの仲間が路頭に迷ってしまったこと。
たくさんの人も路頭に迷ってしまったこと。
みんなが悲しい思いをしたこと。
ボクを保護してくれたのが3.11レスキューだったこと。
そこを経営するおじさんは今もその活動を続けていること。
チャト兄さんも新しい家族と暮らしていること。
そのあとにお世話してくれた人は、
ボクと人間が幸せになるための秘訣を教えてくれたこと。
いつかまた会いたいです。

ボクは今もここで元気に暮らしています。
ボクはこれからもここで元気に暮らします。

今週のお題「ねこ」