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時速1kmの思考

【Amazon Prime】EAT THE WORLD ep6. 禁断のキューバ

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青い空、色彩豊かなキューバの首都ハバナは、数十年前と変わらない姿だ。

1960年代のカストロ台頭以来、アメリカにとっては近くて遠い国だったキューバ。この国の食文化は政治に大きな影響を受けてきた。限られた食材や道具で人々の胃袋を満たすべく、キューバのシェフは創造性をふるって、独自の食文化を開花させたのだ。50年もの時を経てついに渡航規制が緩和され、いまやキューバは人気の観光国だ。

エメリル・ラガッセと旅するのは、アーロン・サンチェス(Aarón Sanchez)、ラテン料理の世界的な権威だ。二人は現代ケイジャン料理の父、ポール・プルドームの下で共に学んだ、いわば兄弟弟子だ。腹ぺこのふたりは赤いクラッシック・カーに乗り込み、さっそくキューバ料理を食べにいく。

農場から食卓へ

1993年、キューバではパラダールと呼ばれる民家を改装した家族経営のレストランが認可された。なかでも観光客や要人が訪れる人気店が ラ・グアリーダ(La Guarida)、つまり「隠れ家」だ。

頭がもげた石像が迎えるだだっ広い玄関から螺旋階段が上へと続く。老朽化が進み、今にも崩れそうなこの四階建てのアパートには、シェフをはじめすべての従業員が住んでいる。通されたのはかつてスペイン女王も食事をしたという由緒ある部屋だ。色褪せた黄色い壁は写真で埋め尽くされ、国の歴史と家族の絆の強さを感じさせる。オーナーのエンリケ・ヌニェス(Enrique Nunez)は、パラダールを開いた初めてのキューバ人企業家だ。

ここで合流したのが地元の料理記者アラン・グティエレス(Alan Gutierrez)だ。キューバの食文化や歴史について発信しているキューバきっての食通だ。

アランによれば、キューバ中南米で一番農業が発達しているという。都市農園がその最たるものだ。食べることもままなららない時代、なんとか食糧不足を打開しようと、人々は知恵を絞ってきたのだ。それがキューバの魅力になってると、アランは言う。キューバの食文化は、都市農園に支えられてきたのだ。

ロブスターのクリームライス添え(Lagosta con Arroz Cremoso)

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ニンニクソースが利いたクリームライスの上に、ロブスターがのっている。

ロブスターは、キューバの数少ない輸出品のひとつで、観光客以外がたべることは禁じられている。魚介類は価格が高いので、子供の頃は食べたことがないというアランも、思わず携帯で写真を撮る。

ロブスターの出汁で炊いた米、甘い赤ピーマン、ロブスターもプリプリだと、エメリルはご満悦だ。

子豚のロースト(Cohinillo Lechal Confitado)

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母乳だけで育った子豚を焼いてから細かく刻み、それを一日かけて成形するという手間のかかった一品だ。フォークをいれると、ふわっと崩れる。

伝統的だが洗練されている。付け合わせはマッシュされたサツマイモ。ハチミツとオレンジのソースは甘すぎるわけでもなく、すばらしい味わいだとアーロンは絶賛する。

キューバでは、牛肉を処理するには政府の認可が必要だ。そのため一般的には豚肉が好まれる。安く育てられるのも魅力の一つだ。

La Guarida

Concordia No.418 /Gervasio y Escobar. Centro Habana. Ciudad de la Habana. Cuba.
La Guarida | An emblem of Havana

都市農園の秘密

ハバナの約16キロ東にあるコヒマル(Cojimar)は、ヘミングウェイの小説『老人と海』の舞台になった小さな漁村だ。ここではキューバの新鮮な野菜の秘密を探る。

キューバでは、ソ連崩壊後の経済危機により、輸入食糧は途絶え、石油不足によるエネルギー危機も深刻となった。国営の配給店で売っているのは卵やパン、ぎりぎりの生活必需品のみで、陳列棚は慢性的にがらんとしている。食材を調達することが、とても難しい時代があったのだ。

そこで生まれたのが、都市農園だ。平たく言えば家庭菜園のようなものだが、その規模は大きく、どうみても片手間でできるような菜園ではない。アメリカでも流行しているようだが、キューバでは必然的に生まれたのだ。

二人が案内された都市農園は、バナナやマンゴーの木が生い茂るジャングルのような場所だ。クラントロやカチューチャなど、キューバ特産の野菜も植えられている。

畑は使用済みのペットボトルできれいに区画されている。殺虫剤などないキューバ人の知恵だ。ペットボトルに土をいれて作物を囲むと、熱くなった表面と光の反射で害虫が寄りつかないのだという。必要に迫られたとはいえ、最先端の有機農業じゃないか。

カフェ・アヒアコ(Ajiaco Cafe)では都市農園でつくられた新鮮なキューバ野菜を使い、伝統料理を追求している。オープンテラスのレストランは開放感に満ちていて、いわゆる社会主義的なものは感じない。とはいえ、自営業が認可されたのは2014年と、つい最近のことである。

アヒアコ・スープ(Ajiaco Soup)

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キューバの象徴ともいえる料理だ。「アヒ」はピーマン、「アコ」はスープの意味する。ユッカにカボチャにコーン、肉などがたっぷり入っている。小ぶりのコーンは軸付きのままだ。都市農園で育ったクラントロが味の決め手だ。 

ロパビエハ(Ropa Vieja)

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牛肉はほろほろ、しっとりだ。パセリとユッカ、ピーマン、カチューチャなど野菜もたっぷり。カチューチャはキューバの辛くない唐辛子だ。小ぶりだが味は濃い。 

豆の煮込み(Cuban Beans)

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米に豆をのせて、少量の豚の脂をほんの少し垂らして食べるのが、エメリルのオススメだ。豚の脂が米の一粒一粒や豆を包みこみ、思わずハイタッチしてしまううまさだという。だが食後の葉巻と12年もののラム酒も格別だ。

Ajiaco Cafe

Calle 92, #267 entre 5ta y 3ra E, Cojimar, Habana del Este, Cuba.
Inicio - Ajiaco Café

ピロ流ローストポーク

キューバでは豚肉はあらゆる料理に使われる肉の王様だ。アランの紹介で、エメリルとアーロンは養豚場へ向かう。オーナーのピロ・ヌルケス(Piro Nurquez)は、豚を飼育しローストすることに生涯を捧げている。

ピロが豚をローストしている間、二人もそのお返しに料理をすることになった。料理記者のアランも合流し、記念撮影をしながら農場のスタッフたちと楽しそうに料理をするシェフたち。ピロが食前の祈りを捧げ、さぁ食事だ。

カボチャの花のフリット

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まずはアーロンのカボチャの花のフリットが前菜だ。メキシコのご馳走である。何も無駄にしないキューバ人に捧げる一品だ。カボチャの花にチーズやバジルを詰め、小麦粉、卵、パン粉につけて揚げていく。サルサソースにはカチューチャとローストしたトマトを使っている。

ダーティ・ライス(Dirty Rice)

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エメリルはニューオリンズの定番、ダーティライスをキューバ風にアレンジした。通常は鶏レバーを使うが、エメリルは農場の新鮮な豚レバーを細かくして使う。

セロリにタマネギ、キューバのピーマン、パプリカなどの香味野菜とともに、豚レバーを炒めていく。米をいれて、塩を少し、豚のスープとウスターソースで炊きあげる。

豚のモホソース(Lechon con Mojo

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豚の体を洗い、オレンジやオレガノ、ニンニク、黒胡椒でつくったマリネ液を手で塗り込んでいく。これが豚を黄金色に焼き上げる秘密だ。

古パーツからつくった独自のオーブンに入れて、120℃で4時間焼く。その後、手製の焼き台にのせて20分ほど放置して香りをつける。乾いた熱が循環し、皮がパリッと仕上がるのだ。囲炉裏のような上で、燻製しているような状態だ。

豚をスモークしたグァバの葉にのせ、帽子と葉巻で飾るのがピロ流だ。パリパリに焼けた皮は破裂している。切り分けられた肉は見るからにしっとりしていて、美しいピンク色だ。パルミーチという椰子の一種を食べて育った豚は、風味がよいという。 

特別な客へのもてなしの印として、豚の尻尾を差し出されるエメリル。肉は自家製のモホソースをたっぷりかけて食べる。モホはオリーブオイルとニンニク、オレガノ、オレンジなどでつくられる調味料だ。

こんなうまい豚は初めて食べた。味付けも濃すぎず、噛むごとに豚の味が楽しめる。

エメリルの伯父と父も養豚場を経営していた。この匂いや動物とともに育ち、食肉のために豚が処理されていく姿を見ていた幼い頃を思い出し、涙をこぼすエメリル。

今あるものに感謝し、そこから料理を生み出す。すべては時代の必然性からうまれた食の文化なのかもしれないが、創造性を発揮して食べるという行為を楽しむ姿を見ていると、食べるとは人生そのものなのだということを痛感する。

また都市農園の取り組みは、食とはかくあるべきだという原点を、私たちに示しているような気がしてならない。

【Amazon Prime】EAT THE WORLD ep5. 世界一のピザ

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30年来の友人であるナンシー・シルバートン(Nancy Silverton)よれば、世界一のピザ職人はフランコ・ぺぺだという。

ナンシー自身もパン職人だが、ロサンゼルスに開いたピザ専門店モッツァ(MOZZA)は人々の舌を唸らせ、ミシュランを獲得。2014年にはアメリカ最高のシェフに選ばれた。そんな彼女が「完璧だ」と絶讃するピザとはどんなものなのか?

エメリル・ラガッセとナンシーは、世界一のピザの秘密に迫るべく、イタリアはカンパニア地方を旅する。

Mozza LA

la.osteriamozza.com

チェターラのアンチョビ

フランコ・ペペの店は、ナポリから一時間ほど北上したカイアッツォという小さな村にある。彼のピザに使われる食材は、アンチョビ、チーズ、オリーブオイル、トマト、そして小麦粉とシンプルなものだが、どれもカンパニア近辺でとれた、こだわり抜かれた食材だ。

まずはイタリア随一のアンチョビの産地、チェターラ(Cetara)へ向かう。港から目と鼻の先のジョンナロ・マルシアンテ(Gennaro Marciante)の店、アクアパッツァ(Ristorante Acquapazza)で新鮮なアンチョビを食べる。

アンチョビのアクアパッツァ(Alici All'Acqua Pazza)

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食材に自信があるからこそできる、とてもシンプルなアクアパッツァだ。

フライパンにオリーブオイルとトマト、ニンニクを少々、皿いっぱいのアンチョビをいれて、フライパンを振る。白ワインなどは使わず、水だけを加えて煮立たせるだけというシンプルの極み。蓋も閉めない。

イタリアンパセリを少々、塩の代わりにコラトゥーラ(colatura)をスポイトで二杯。漁師の秘密のエッセンス、これが味の決め手だ。

コラトゥーラはカタクチイワシでつくられた魚醤だ。樽にアンチョビと塩を交互に重ね、2〜3年寝かせる。約40キロのアンチョビから4リットル弱ができるという。

コラトゥーラのスパゲッティ(Spaghettie con Colatura)

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シンプルだが味のインパクトは強いという。つくりかたは紹介されていないが、オイルベースのアーリオ・オーリオではないだろうか。パセリとミニトマトコントラストが美しい。

アンチョビのフライ(Alici Fritti)

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残念ながら、こちらもつくりかたがわからない。アンチョビといっても缶詰ではないので、揚げてもしっかりと形が残っているのだろう。

水牛のモッツァレラチーズ

チーズはピザの要だ。フランコは地元で作られる水牛のモッツァレラを使っている。二人が訪れたのは、イル・カソラーレ・チーズ工房(CASEIFICIO IL CASOLARE)だ。

工房を案内するのは、口髭をはやした小太りのチャーミングなチーズ職人のミモ・ラ・ヴェッキア(Mimmo La Vecchia)だ。大きな水槽に浮いている無数のモッツァレラは壮観、いや絶景かな、である。

原料はイタリア原産の地中海水牛のミルクだ。脂肪が多く、リッチでクリーミーな味わい。脂肪もプロテインも普通の牛乳の2倍、つまり栄養価が2倍だと、誇らしげなミモ。ここでは絞って12時間以内の新鮮なミルクが使われている。

凝固したミルクを機械で細かく刻み、特殊な容器に入れて、手で混ぜていく。おからのような見た目で、ぼろぼろとしている。そこに熱湯を加えて木べらでゆっくりかき混ぜていく。チーズがもったりと回転しはじめたら、余分な水を桶で掻き出して捨てる。ここまですべてが手作業だ。

最後にチーズをちぎっていく。このちぎる動作(モッツァッレ)がモッツァレラの由来だ。出来たては「雲を食べたような柔らかさ」だという。

CASEIFICIO IL CASOLARE

12 v. Olivella, Alvignano, CE 81012, Italy
Produzione formaggi - Alvignano - Caserta - Caseificio Il Casolare

オリーブオイル

少し北に車を走らせ、次に訪れたのは、フランコにオリーブオイルを提供しているテッレ・デル・プリンチペ(Terre Del Principe)だ。オーナーのジョヴァンニ・ペトラッツォーリ(Dr. Giovanni Petrazzuoli)は、フランコの幼なじみで、代々オリーブオイルを製造している一族だ。

エクストラバージンオイルは、苦味とスパイシーさのバランスがいい。オリーブオイルをつくるには科学的な知識も必要だが、一番重要なのは、情熱だという。だが伝統も守り、27℃でオイルを絞るという厳密さも併せもつ。

かつてロサンゼルスでフランコがピザの講義をしたとき、彼はオリーブオイルとオリーブを持参したという。それほどフランコにとっては生命線とも言える食材なのだろう。

Bed & wine Terre del Principe

30, S.Prov. SS. Giovanni e Paolo-Campagnano, Squille, Castel Campagnano, CE , 81010, Italy

世界一のピザを食べる

かつてのカイアッツォ(CAIAZZO)は、若者がはなれ高齢化が進み、寂れた村だったという。だがフランコが店を開くと、活気溢れる村に生き返ったのだ。ペペ・イン・グラーニ(Pepe In Grani)は狭い路地に何百人もの行列ができるほどの盛況だ。

禿頭に青縁の洒落たメガネをかけた姿は、ピザ職人というよりもデザイナーのような雰囲気だ。さっそく生地づくりから始まる。

完璧なピザのレシピなどない。あると言う奴はピザを知らない。

これがフランコのピザの秘密だという。なんて勇気づけられる言葉だろう。日々、ピザ生地の配合に四苦八苦している自分には、神のお告げのように聞こえる。

手押し車のような容器にはいったピザ用の小麦粉に、端から水を加えていく。小麦粉で水をせき止めて、ダムをつくり、そこで小麦粉を溶かすように細かく指先を動かすフランコ

そして両手で弧を描くように大きくかき混ぜていく。かなり緩い生地で、どろどろとしている。これが生地の元種(スターター)になる。これにビール酵母を加えていく。

混ぜる範囲をどんどん拡げていき、さらに容器全体を円を描くように、下から上へ持ち上げるようにして両手でかき混ぜていく。

優しく触るんだ。女性だと思ってね。

小麦粉は、ナンシーが普段使っているものより細かく挽かれており、水と混ざると絹のように滑らかだ。イタリアのピザ用小麦粉は、00粉と呼ぶもので、日本ではカプート社のものが有名だ。

これをピザ1枚分づつ成形していくのだが、手の平からぷるんと溢れる生地は、とても柔らかいが弾力がありそうだ。

できあがった生地を台にのせ、丁寧に伸ばしていく。繊細な生地なので、決して叩いてはいけない。よくピザ屋でばんばんと打ち付けているのは、パフォーマンスなのだ。あくまでも、女性を扱うように! だ。

平たく成形した生地の上に、モッツァレラ、ヴェスヴィオ山麓産ピエンノロ種のトマト、カイアッツォのオリーブ、オリーブオイルをかけ、マテーゼ産のオレガノをのせる。

ナポリ窯にいれて、待つこと90秒。美しいコルチョーネが出来ている。窯から取りだし、アンチョビをのせる。風味が損なわれるからアンチョビは焼かないのだ。バジルを飾り、円形状の板にのせた布で底を拭って余計な焦げを拭い、皿に載せる。

イル・ソーレ・ネル・ピアット(El Sole Nel Piatto)

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まさに芸術作品。映像を見ているだけで幸せになる。エメリルとナンシーが三日かけて巡った地元食材が、三位一体となって、1枚のピザが生まれる。ピザにかぶりついたエメリルは、もう言葉がでない。フランコに会えて幸せだと、感激しきりだ。

生地や素材に込められた愛情を味わうんだ。言葉で表せない。

レストランに集まっていた生産者たちに、フランコがピザを振る舞う。手塩にかけた食材が、世界一のピザになるのだ。これ以上の幸せはないだろう。フランコは食材に、そして生産者全員に、敬意を払っているのだ。互いがいるから自分もまた存在している、そんなことを思い出させてくれるピザだった。

まさに完璧な旅立った。世界一のピザを堪能した。

Pepe In Grani

Vicolo S. Giovanni Battista, 3, 81013 Caiazzo CE, Italy

www.pepeingrani.it

【Amazon Prime】EAT THE WORLD ep4. 料理の啓蒙

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エメリル・ラガッセが訪れたのは韓国のソウル。ここで学ぶのは、料理の技術、知識といったものではない。料理の精神世界へと足を踏み入れるのだ。エメリルは、韓国系アメリカ人シェフのダニー・ボウイーンと、エメリルのマネジャーであるシェップ・ゴードンとともに、神の食を巡る旅に出る。

麻浦市場で食べる

活気あふれる麻浦市場では、新鮮な肉や魚、果物などありとあらゆる食材が手にはいるソウルの台所だ。そこに現れたのが料理界の反逆者ダニー・ボウイーン(Danny Bowien)。生まれは韓国だが、養子としてアメリカに渡ったダニーはインスタント料理で育つ。TVでエメリルを見て料理に興味を持った彼は、独学で中華を学び、独自のスタイルの中華を編み出した。ダニーと中華の関係は「レッド・ツェッペリンとブルースに等しい」と称されている。

韓国料理には詳しくないが、ここへ来ると血が騒ぐのが分かるんです

この市場で買った食材は、二階に持っていけば調理してもらえるシステムだ。エメリルはヒラメを捌いてもらうことにした。韓国にも刺身の歴史があり、レタスに刺身とキムチを巻き、チリソースをつけて食べるのが韓国流だ。

メウンタン

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骨ごと厨房に渡した残りのヒラメは、アラで出汁をとった辛い鍋となって登場。韓国風ブイヤベースだ。唐辛子が相当入っているのだろう。真っ赤なスープを器用に白米にかけて食べるエメリル。

焼肉

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韓国といえばはずせないのが焼肉だ。二人は大衆焼肉店に向かう。簡易の椅子がところ狭しと並び、鉄板からもうもうと煙が立ち上る。なにもかもが60年前と変わらず、肉にも味付けをしないので、肉本来の味を楽しめるという。

ここで合流したのがシェップ・ゴードン(Shep Gordon)だ。アリス・クーパージミ・ヘンドリックスジャニス・ジョップリンなどを大ヒットに導いてきた敏腕プロデューサーだ。エメリルにスポットライトを当てたのもシェップである。ダライ・ラマにも食事をつくった経験もあるという多才な初老だ。

「寺では味わえないよなぁ」と肉にかぶりつく面々。そう、明日は、精進料理を学びに寺へ行くのだ。

麻浦農水産物市場

533-1 Seongsan-dong, Mapo-gu, Seoul, Korea

料理と精神世界

ソウルから約270キロ南のプッカミョン(Bukha-Myeon)。紀元632年に創建された白羊寺の僧侶、ジョン・クァン(Jeong Kwan)は古代からの技術を駆使して、料理を振る舞う。

テーブルに並べられた食材は、すべて寺の僧侶たちが育てたものだ。チリペースト、醤油、酢といった調味料もしかり。何年も発酵させた手製の調味料が彼女の隠し味だ。まずは食材に感謝し、神に向かって手を合わせ、料理を始める。

焼き豆腐の漬け物添え、山椒とベリーの漬け物

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エメリル担当の豆腐料理だ。一口大の豆腐を切り、丁寧にすべての面フライパンを焼いている。

干し柿のサラダ

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シェップの担当。干し柿のサラダは彩りに七年物のコチュジャンを使っている。

テンジャンチゲ

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ダニーの担当。専用の器を火にかける。ズッキーニは、包丁でなく、あえてスプーンを使って切っていく。器にいれて、シイタケをさらにいれて沸騰させる。

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テーブルに並べられた美しい精進料理。好きな順番で食べてよいという。なによりも、キムチがとてもうまそうだ。石造りの洞に漬けてあるキムチは、蓮の葉で被って防腐しているという。

彼女にとって料理はバランスが命です
熱い料理は冷たい料理と、甘いものは塩辛いものと、陰と陽の調和なのです。

「これまで情熱や創造性を追い求めてきましたが、精神性も大切だと気づいたのです」と、彼女との出会いで新たな境地に至るエメリルだった。

Baekyangsa Temple (백양사)

english.visitkorea.or.kr

料理はロックだ!

ソウルに戻ったエメリルとダニーが向かったのは、バーミングという地元のレストランだ。この店は、NYにあるダニーの店とスタイルがそっくり。というのも、オーナーのフランチェスコ・チュウ(Francesco Chu)は、ダニーに刺激を受け、そっくりの店をつくってしまったのだ。

二人はシェフのエイ・フーン・チャン(Eui Hoon Chung)、NYにあるダニーの店、Mission Chinese Food NYから来たアンジェラ(Angela Dimayuga)とともに、料理をすることになる。

チキンウィング

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この料理は一晩で100皿は売れるという、開店当時からあるレシピだ。片栗粉を使わずに手羽先をカリッとさせる秘訣をダニーが披露する。

まずは手羽肉を1~2分揚げて肉汁を閉じ込め、冷凍する。すると、鶏皮が膨らむのだ。冷凍庫にいれた炭酸水が爆発する原理だという。

手羽先を高温の油で揚げ、ザルに引き揚げる。同じ鍋で大量の乾燥唐辛子も揚げていく。これを油ごと手羽先にかけ、唐辛子の風味をつける。

中華鍋に戻した手羽先に大量のパウダースパイス(色味からいって花椒のようだ)をかけ、豪快に鍋をふるダニー。もうもうと立ち上る煙とそのスパイスの量に、さすがのエメリルも目を剥く。

皿に盛った手羽先に唐辛子をのせ、さらにスパイスをかけ、アサツキをのせて出来上がりだ。料理をする姿もその料理も、なんともロックな感じ。

言ってみれば、四川料理の辣子鶏(ラーズージー)の手羽先版だろう。見るからに口の中がぴりぴりと痺れそうな一品だが、クセになりそうだ。

BBQシュリンプ

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エメリルも得意料理のBBQシュリンプを披露する。

エビは頭をとって殻を剥く。香味野菜に、エビの殻と頭を炒め、ソースをつくっていく。さまざまな調味料を加えていくが、決めては自家製ウスターソースだ。エビの殻を潰すようにして丁寧にザルで漉していく。エビの殻やミソが凝縮した、美しい赤いソースだ。

熱した中華鍋に下味をつけたエビをいれ、ソースも絡めて炒め上げる。エビを皿にもり、とろみがかったソースをかけてアサツキを散らせば完成だ。

この料理はニューオリンズ名物のBBQシュリンプをエメリル流にアレンジしたものらしいが、エメリルのホームページにレシピがあったので参考になるかもしれない。

emerils.com

Mission Chinese Food

missionchinesefood.com

【Amazon Prime】EAT THE WORLD ep3. モダニスト料理の巨匠たち

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モダニスト料理、前衛料理、あるいは分子ガストロノミーなどと呼ばれる分野がある。
なんと呼ぶにせよ、まっ先に思い浮かんだのが、世界を魅了したスペインのエル・ブジだ。というのも、「エル・ブリの秘密 世界」というドキュメンタリー番組を見ていたからだ。

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皿に載せられた料理は、もはやその食材そのものの原型はなりを潜め、料理というより、アートだ。すべてが緻密に計算されたあっと驚く仕掛けに、食事はエンターテイメントに昇華する。2011年、惜しまれつつも閉店したエル・ブジだが、モダニスト料理の父フェラン・アドリアの活動は続いていた。

スペイン出身の巨匠ホセ・アンドレスを案内役に、エメリル・ラガッセはフェラン・アドリアに会いにいく。

モダニスト料理は伝統の延長線上にある

アストゥリアス州の州都オビエドの大聖堂の前でホセと再会したエメリル。さっそく腹が減ったと意気投合する二人は、街へ散策にでかける。オビエドの歴史は中世初期にまで遡る。その影響はいまだ街に色濃く残り、チーズやモルシージャなど伝統食材を売る専門店が軒を連ねている。その様子を、ホセは「刺激的だ」と言う。

ここでは伝統が新しいものを生む。ルーツをたどることで今の自分がわかる。そして未来に向かう。モダニスト料理は伝統の延長線上にある。

まず案内されたのが、チョリソー、モルシージャをはじめ、さまざまな伝統食材を扱っているAramburuだ。漂うハモン・イベリコの空気を大きく吸い込む二人。

ハモン・イベリコは、ドングリを食べて育ったイベリコ種の黒豚を乾燥・熟成させた生ハムで、豚肉の王様とも呼ばれている。脂肪もたっぷりで、口の中でとろけるのが特徴だ。(ちなみに白豚でつくったハムはハモン・セラーノだ。) 店員が薄切りしているハモン・イベリコを見て思いついたホセ。即興で料理をつくりはじめる。

ハモン・イベリコの鶏卵素麺のせ

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鶏卵素麺(ウエボ・イラド)は、14世紀にこの土地伝わってきた食材だ。福岡にも同様の菓子があるが、その起源はお隣のポルトガルだ。卵黄を熱したシロップの中に糸状に流し入れると、髪の毛のように細い錦糸玉子になるのだ。

ハモン・イベリコにウエボ・イラードを載せて、ホセがエリメルに食べさせる。思わず抱き合う二人。

Aramburu

aramburu-asturias.es

アストゥリアス料理の女王

アストゥリアス州の郷土料理といえば、ファバダ・アストゥリアーナだ。豆と豚肉の煮込んだもので、古くから伝わる家庭料理だ。ホセがファバダの聖堂で法王に会わせると、車を郊外へ走らせる。

カーサ・ヘラルド(Casa Gerardo)ミシュランの星に輝く、135年の歴史を誇る名店だ。1970年代に流行したヌーベル・キュイジーヌに刺激されたオーナーのペドロ・モラン(Pedro Moran)は、伝統的なスペイン料理を現代風にアレンジすることに情熱を燃やす。父の情熱は息子マルコス・モラン(Marcos  Moran)にも引き継がれ、現在は彼が料理長だ。

ウナギの燻製

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厨房の大きな水槽には、無数の魚が泳いでる。ウナギの稚魚、アングーラだ。スペインでは、昔からウナギの稚魚を食べる習慣がある。一般的には、缶詰や冷凍で売られていて、オイルで煮た「angulas(アングラス)」が有名だ。

キャビア同様に稀少な食材であり、世界的にウナギの収穫量が減っていることも影響して、近年では高騰しているため、巷のバルではグーラ(gula)という代用品で調理されているほどだ。あの水槽一杯でいくらするのだろうと、震撼してしまう。

今回は、それを生きたまま調理するというマルコ。斬新な調理法で繊細な風味と食感を味わおうというのだ。ブランデーグラスの中を縦横無尽に泳ぎ回るウナギの稚魚。そこに燻製した大人のウナギを入れ、数種のエビでとった熱いコンソメを一気に注ぎ入れる。暴れ出すウナギの稚魚が、あっという間に白くなってしまう。

「まるで海を食べているようだ」とエメリル。そしてまたハグする二人。ホセはうまいものを食べるとハグとキスをする癖があるようだ。

ファバダ・デ・プレンデス

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伝統的な家庭料理であるファバダにも、モラン流のコツが満載だ。通常は乾燥した白いインゲン豆(ファバ・デ・ラ・グランハ)を使うのだが、モラン家の人々は、秋に収穫して冷凍保存しておいた生の豆を使う。これがポイントの一つだ。

大鍋に豆、水、オリーブオイル、パンチェッタ、そして別の鍋で5分茹でて余分な脂を落としたチョリソーとモルシージャを合わせて、15分煮る。その間、フライパンにオリーブオイルを熱してタマネギ、パプリカパウダーを炒める。

大鍋にはサフランを入れ、鍋をゆする。かき混ぜてはいけない。豆が割れてしまうからだ。赤ちゃんのように大事に扱うことがポイントだ。炒めたタマネギを大鍋に移し、また鍋ごとゆすり、蓋をしてごく弱火で40分ほど煮る。豆を舌の上にのせたら、舌と上あごの間で潰すことができるくらいに煮るのが最大のポイントのようだ。

アストゥリアス料理の女王と呼ばれるこの料理。伝統的には一緒に煮た肉を豆の中にいれて食べるが、今回は横に添えてある。自由に食べればいいのだ。

今の料理をつくっているんだ。昨日の料理は作れないし、明日の料理もムリだ。今日の料理を作る。明日も今日になる。

Casa Gerardo

Carretera AS-19, Km. 9, 33438 Prendes, Asturias,España

Restaurante Casa Gerardo | Uno de los restaurantes más prestigiosos del Principado

モダニスト料理の父に会う

バルセロナモダニスト料理を語るうえで重要な街である。1980年代、世界最高峰のシェフ、フェラン・アドリアが料理革命を起こし、前衛料理が誕生したのだ。フェランはエル・ブジでの食事を映画や絵画の鑑賞に喩え、食事を芸術の域にまで高める。

エル・ブリの一日―アイデア、創作メソッド、創造性の秘密

エル・ブリの一日―アイデア、創作メソッド、創造性の秘密

  • 作者: フェランアドリア,ジュリソレル,アルベルトアドリア,Ferran Adri`a,Juli Soler,Albert Adri`a,清宮真理,小松伸子,斎藤唯,武部好子
  • 出版社/メーカー: ファイドン
  • 発売日: 2009/02
  • メディア: 大型本
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 若かりし頃のホセも、フェランの影響を強く受け、門戸を叩いたシェフの一人だ。しかし2011年7月30日、エル・ブジは閉店する。

「CERRAMOS EL BULLI PARA ABRIR EL BULLI(私たちはエル・ブジをオープンするために、エル・ブジを閉店する)」

料理界に衝撃が走った。1日15時間働く生活を25年間も続けてきたフェラン。休業を宣言したのは、「創造性の枯渇を恐れたからだ」という。そして現在、フェランは「エル・ブジ ファウンデーション」なる料理の研究機関を開設し、再始動している。

地下鉄の通路のような暗い建物の扉を開けると、太陽が降りそそぐかのように対照的な光の下、小柄の男がで二人を迎える。フェラン・アドリアだ。その顔はとても穏やかで、あのドキュメンタリー番組で見られた鋭い眼差しとは別人のように見える。

白を基調とした室内は、まるで大学のセミナールームのようだ。平然と並ぶテーブル、パソコンの前で作業をしている人々は静かな熱気に包まれている。そこかしこに図表やアート、写真が飾られ、いわゆる調理道具といったものは見あたらない。

ここでは料理に関するすべてを研究している。料理人はもちろんのこと、哲学者、歴史家、生物学者社会学者など、さまざまなバックグラウンドを持った人々が集まり、創造性とはなにかについて解析しているのだ。研究の対象は料理ではあるものの、その多様性が可能性を広げるとフェランは言う。

フェランがエメリルに質問をする。

トマトとは? どう理解する? トマトは何だ?
どう新種をつくる? どうやって育てる? 
どう売る? インターネットか、それとも市場か? 
知識は調理を助ける。
すべてを知ることはできない。
3000種類のトマトがあるからだ。

このひとつひとつに、即座に答えられる人がいったい何人いるだろう? 飽くことない探求心にただ圧倒される。そしてその食に関するすべての情報を、惜しみなくみなと共有したいというのも、フェランの懐の深さだろう。

「ブジペディア(Bullipedia)」という史上最大の料理百科事典をつくろうというのだ。原始時代から現在まで、食と料理に関するすべてを分類・整理し、収集した情報を世界と共有して新しいアイデアや料理、料理人を育てるのが目的だ。

この研究所自体、彼の夢そのものなのだろう。エル・ブジは健在だ。感謝の言葉を述べながら涙を抑えるエメリルは、「ゼロからやり直したい気分だ」と声を詰まらせる。

ホセがフェランの言葉をなぞる。

彼は、目的があって店を閉めた。
彼は、多くを知ったと思っていた
いろんな技や料理も生み出した
― 無知だった(フェラン)
でも本当は何も知らないと気づいた
― 最高の発見だ(フェラン)

「もしも(What if)」の追求

エル・ブジを閉めた日、別の店はやらないと決めたフェラン・アドリア。ファンとしては少々残念なことではあるが、同店で23年間料理人を務めた実弟アルベルト・アドリア(Albert Adrià)がその革命の伝統を引き継ぎいでいる。

鉄製の門をくぐり抜けると、まるで秘密基地のような薄暗い空間が広がっている。ここがアルベルトが総料理長を務めるエニグマだ。エニグマとは、「謎」「なぞなぞ」「パズル」などを意味する言葉だ。

創造性というのは二割がひらめきで、六割が情熱だ
人生と同じだ

アルベルトがある実験を始める。イカスミに水、ゼラチンを加え、バットに流し込み、バーナーで炙り板状にする。そのイカスミの紙を切り、何かを巻いていく。詳しくは明かされないが、何か新しい食感を試しているようだが、これこそフェランの伝統だ。

アーモンドのムース

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卵とゼラチンを撹拌してつくるミルクムースに、香油を注入し、パルメザンチーズをかけたひと品。亜酸化窒素を使って食材をムースに加工するエスプーマの技術が使われているのだろう。軽くて手の中で溶けてしまいそうだというエメリルに、ホセの語るストーリーが面白い。

五番街を歩いていて、目の前に雲が現れたとする
腹が減っていたので、思わず口を開けて雲にかじりつく
それがパルメザン味だったら最高だ

誰もが考えそうで考えない。というよりも、純真な子供のような発想である。パルメザンが子供受けするかどうかは疑問だが。モダニスト料理のカギは「もしも(What if)」の追求にあるのだ。

モダニスト料理は、創造性とアイデアの蓄積だ。実験を繰り返し、限界に挑戦するシェフたちに感銘を受けるエメリル。

技術を磨くだけでは不充分だ
努力が必要だと再確認したよ

そう旅を振り返り、エメリルとホセは乾杯する。

Enigma

Carrer Sepúlveda 38-40 08015 - Barcelona

elbarri.com

【Amazon Prime】EAT THE WORLD ep2. 小籠包

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マリオ・バターリ(Mario Batali)は手打ちパスタの名人としてNYのイタリアン業界を牽引するシェフだ。豊かな体躯に派手な金髪。皮肉混じりのジョークを交えて豪快に笑う姿は、いかにもイタリア系のおっさんだ。

グリニッジ・ビレッジのバッボ(BABBO)でエメリル・ラガッセを迎えたマリオは、さっそく祖母直伝のラビオリをつくる。ラビオリは皮と具のバランスが重要だと力説するマリオ。太い指で小さなラビオリをていねいに包んでいく。

いわゆる小麦粉の皮で具を包んだ料理は、世界中にある。スペインのエンパナーダ、ロシアのピロシキ、そしてはマリオが愛してやまないのが、中国の小籠包だ。

ラビオリに舌鼓を打ちながら、マリオがおもむろに取り出したのは、上海小籠包ガイドブック(The Shanghai Soup Dumpling Index by Christopher St. Cavish & Ailadi Cortelletti)だ。

小籠包の重量や皮の厚さ、具とスープの割合など、その構成が図解で科学的に分析されている。紹介されているのは、上海で選りすぐられた店ばかりだ。二人は最高の小籠包を食べるべく、上海へ飛ぶ

子牛の脳みそのラビオリ

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丁寧に仔牛の脳みそを潰していくマリオ。滑らかになった脳みそに、飴色になるまで炒めたタマネギ、黒胡椒、パルミジャーノ*1、脳みその20%のリコッタ・チーズを加え、自家製のパスタに包んでいく。

Babbo

110 Waverly Place, New York, NY 10011
http://www.babbonyc.com/

尊客来(Zun Ke Lai

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街中にあふれる中国語に右往左往するものの、ようやくたどりついたのは尊客来、ガイドブックによれば、最高点の小籠包を出すという。上海一の小籠包を決めるポイントは、皮、フィリング(具とスープの量)、独創性だ。

豚肉の小籠包(Xian Rou Tnag Bao)

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まずは、皮の薄さ、皮と具のバランス、弾力性をみようと、レンゲにのせた小籠包をじっくりと観察する二人。皮を少しかじってスープをすする。

「コクがあるな」「少し甘いよな」とさっそく批評が始まる。そして、記念すべき一つ目の小籠包を同時に口に入れる。

「すばらしい」と思わず声を漏らす。

マリオは小籠包を手づかみし、具の重みでその極薄の皮が垂れ下がっている様子を注意深く眺めている。エメリルは小籠包の皮を剥がし、スープの状態を見る。豚の味もしっかりしているし、スープの割合もいいと、気に入った様子だ。

だがそこにマリオが疑問を呈す。「もう少しスープが多い方がよくないか?」

皮の薄さは上海一だと豪語するシェフのグー・ダン・シェン(Gu Dong Sheng)。20年前と変わらない秘伝のレシピでつくられている餡は、その調理も信頼できる家族だけが担当し、門外不出である。

木の麺棒で次々に生地が伸ばされ、目にもとまらぬ早さで小籠包が包まれていく様子に驚く二人。なんせ5秒に一つ、1日に1万6000個、すべて受注生産されるというのだ。肉に混ぜ込んだゼラチン状のスープが、蒸すことで溶け出すという小籠包の仕組みを知り、舌を巻くの二人だった。

尊客来

上海市徐匯区天鑰橋路666号

r.gnavi.co.jp

佳家汤包(JIA JIA TANGBAO)

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次は上海で一番の人気店だ。24席とかなり狭い店内ではあるが、毎日1万2000個が手作りされている。慣れない大衆店のせいか、気を紛らわすようにブラックジョークを連発するマリオ。ほどなく小籠包が運ばれてくる。

カニと豚肉の小籠包(Xie Fen Xian Rou Tnag Bao)

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熱い小籠包をさっそく手で摑むマリオ。皮が厚く、サイズも大きいが、それがこの店の売りでもあるようだ。舌を火傷しながら、エリメルはまたもや小籠包を分解しはじめる。「スープは少ない、豚の風味もあまりしない、繊細さが足りない」と、なかなか辛口な批評だ。

豚肉の小籠包(Chun Xian Rou Tang Bao)

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ここで流暢な英語を話すオーナーのジョウ・チャン(Zhou Qiang)が豚肉の小籠包を運んでくる。小籠包の食べ方が違うと二人に指摘する。

小籠包の正しい食べ方は、皮を少しかじり、スープはすぐには飲まない。スープをレンゲに流し、冷ましてからいただくのだ。

突然のオーナーの登場に、手の平を返したように小籠包を褒めまくる二人。安物のコップでも最高にうまいと、ビールで乾杯をする。

佳家汤包

上海市黄河路90号

www.shanghainavi.com

上海古猗園餐庁(Guyi Garden Restaurant)

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最後に二人が訪れたのが、元祖小籠包を掲げる店だ。店内は客で活気に満ちている。6代目の店主リ・ジャンガン(Li Jiangang)は、約150年前の1871年に考案されたレシピを代々守り続けている。一番人気は豚肉の小籠包だ。20人のスタッフで一日に3〜4万個つくるという。ヒダの数は18と厳密だ。

豚肉の小籠包

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店主が見守るなか、小籠包に口をつける二人。そして、ただ頷く。そして、オーナーもまた頷く。その眼差しは、料理人がだけがわかる互いへの尊敬の念が感じられる。

「ナンバーワンだ!」

皮から溢れ出す豚皮と鶏骨からとったスープが絶品だ。これこそ味の決め手。いろいろ食べてきたけれど、やはり元祖にかなうものはないと太鼓判を押す二人。

小籠包対決

エリメルとマリオは古くからの友人だが、家族旅行も一緒に出かけるほどの仲だ。そして旅の恒例行事のひとつが料理対決なのだ。

場所を厨房に変え、二人の小籠包対決が始まった。市場で買った食材を使い、思い思いの小籠包をつくりはじめる。

だが百戦錬磨の二人も、小籠包を包むとなると、一筋縄ではいかない。まったくうまくいかず、料理長のチェン・ハイ・ユン(Chen Hai Yun)は遠慮なくダメ出しをする。なんとか小籠包を蒸しあげ、スタッフが集まり評論会が始まる。

ウナギ、マッシュルーム、ハーブの小籠包/マリオ作

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エメリルに定番具材の豚肉をとられてしまったので、鰻を使うことにしたマリオ。見た目は正統派の小籠包に仕上がっている。卵白を使ったエリメルに対し、「俺は使わない」と頑なに自分を貫いた小籠包。スタッフには好評だ。

エビ、豚、ナズナの小籠包/エメリル作

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エビ、豚、野菜など、オーソドックスな具材を使っているが、豚足、エビの殻、ハーブなどを使ったクレオール風スープに小籠包をいれるという逆転の発想で勝負する。

だが、スープが美味いものの、肝心の小籠包が薄味だと批評される。「薄味の小籠包とこのスープは最高の相性だ」とからかうマリオ。小籠包を通して親交を深めるシェフたちの笑顔が印象的だ。

この経験を活かして、ラビオリを改良しようと、意気揚々に夜の上海の街を歩くマリオとエメリル。

上海、最高!

上海古猗園餐庁

上海市嘉定区南翔鎮宜公路218号 

http://www.guyigarden.com/

 


小籠包を見ているうちに、食べたくなってしまったので、つくってみることにした。

スープをゼラチン状にして細かく切るという工程があるものの、餡は餃子や焼売のそれとさほど変わらない。

やはり包むのがなかなかに難しかった。ヒダの数を18にそろえようとしてもうまくいかない。不細工なのもいくつかあったが、蒸し上げたら素人ながら小籠包の形にはなっていた。

何でもやってみるものである。なにより外でしか食べられないと思っていた小籠包が家でも食べられると知った家人は大喜びである。

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*1:字幕では「最高のチーズ」となっているが、バターリは「King of Cheese」と言っているので、おそらくパルミジャーノのことだろう